戦後70年以上解決されてこなかった「北方四島」の領土問題。11月14日に安倍晋三首相とプーチン大統領が会談し、返還交渉が再び動き始めました。今、どんな交渉が行われ、何が課題になっているのでしょうか?
最終更新日:2018/11/18
※記事の読み方:前提知識を復習したい方は「前提知識」の中のわからない箇所から読んで下さい。最新の動きを知りたい方は「ニュースのポイント」から読み進めて下さい。
前提知識
北方領土、名前と場所覚えてる?
日本が返還を要求してきたのは、北海道の根室半島沖にある「歯舞群島(はぼまいぐんとう)」「色丹島(しこたんとう)」「国後島(くなしりとう)」「択捉島(えとろふとう)」の4島です(北方四島)。
そもそもなぜ領土問題が起きたの?
第二次世界大戦中の1945年2月のヤルタ会議で、アメリカとイギリスは、ソ連に日本との戦争に加わってもらう見返りとして、当時日本領だった「千島列島」のソ連への引き渡しを密約していました。日本とソ連はお互いを侵略しない約束をしていましたが(日ソ中立条約)、この密約を受けてロシアは同年8月に参戦し、日本がポツダム宣言を受け入れた後に千島列島に侵攻。北方四島を占領しました。
日本は敗戦後のサンフランシスコ平和条約で「千島列島」を放棄することを約束しました。でも、この「千島列島」とはどこまでなのか(北方四島は含まれるのか)?放棄された後は、誰のものなのか?は明示されませんでした。
日本は過去のロシアとの重要な条約では「千島列島」の定義の中に北方四島は含まれていなかったとして、北方四島は放棄した「千島列島」には含まれないから日本の領土だ、と主張してきました。ソ連はヤルタ協定を理由に北方四島を自分の領土だと主張してきましたが、ヤルタ協定は戦時中の密約で日本に効力が及ぶものではなく、日本と連合国が終戦後結んだサンフランシスコ平和条約も「千島列島」をソ連のものだとは認めていません(そもそもソ連は同条約に署名しませんでした)。北方四島の領有問題は戦後処理上あいまいにされたまま、70年以上解決されずにきました。
- もっと詳しく→日本の公式見解については:外務省「北方領土問題の経緯」
日本とロシアはこれまでどんな交渉をしてきたの?
これまで日本もロシアも、北方四島を自国の領土だと主張してきました。この領土問題が解決しないので、日本とロシアは戦後70年以上も経つのに「平和条約」を結んでいません。
日本とロシアが国交を回復した1956年の日ソ共同宣言 では、将来平和条約が締結された後に、歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことが確認されました。国後島・択捉島の2島については記載されませんでした。
日本は基本的に四島の一括返還を求めてきましたが、まずは歯舞群島と色丹島を返してもらうという「2島先行返還」を模索するような動きもありました。例えば森喜朗元首相はロシア側に、「歯舞・色丹をどう引き渡してもらうか」の議論と「択捉・国後がどちらのものか?」との議論を分けて話し合うことを提案したことがあります。ただその後の小泉政権で四島一括返還の主張に立ち戻ったこともあり、実現はしませんでした。
- もっと詳しく→内閣府「返還交渉の経緯を整理します。」
北方四島に日本人は住んでいるの?
現在、日本人は一人も住んでいません!2016年時点では、国後島・択捉島・色丹島の3島に1万6668人のロシア人が住んでいます(出典:内閣府)。歯舞群島に住民はいません。
戦前は北方四島に約1万7000人の日本人が住んでいましたが、1948年までに全員がソ連によって北海道以南の日本に強制退去させられました。
ニュースのポイント
2018年11月に入って、どんなことが話し合われている?

安倍晋三首相とプーチン大統領は11月14日にシンガポールで会談。安倍首相は会談後、「領土問題を解決して平和条約を締結する。私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つというその強い意思を大統領と完全に共有した」と発言しました。平和条約締結への交渉の基礎が「日ソ共同宣言」であることも確認されました。日ソ共同宣言は、平和条約締結後に日本に歯舞諸島と色丹島を引き渡すと明記していて、択捉島・国後島への言及はありません。日本政府は今回、これまでのように北方四島の一括返還を求めるのではなく、まず歯舞・色丹の2島の返還を求める「2島先行返還」の方針で交渉するのではないかと言われています。
- もっと詳しく→11/14日露首脳会談後の記者団への発言全文:産経新聞「安倍首相、日露首脳会談後発言全文 北方領土問題「必ずや終止符を打つという強い意思を完全共有」
交渉の課題は?
①安全保障問題
ロシア側の懸念として、北方領土を日本に返還したとき、その場所に米軍基地やミサイル防衛システムを置かれたのでは、北方領土の目と鼻の先にあるロシアとしては安心して夜も眠れません。安倍首相は2016年の段階で北方領土の非軍事化をロシアに提案していたとも報道されており、返還された北方領土に米軍基地を置かないことなど、引き渡しにあたってロシアの懸念を解消する何らかの約束が必要となっていると言えそうです。日本にとってはこうした約束をロシアとすることを、同盟国のアメリカが受け入れるのかも課題となります。
②「2島先行返還」であっても実現に課題
今回交渉の基礎となることが確認された「日ソ共同宣言」では、歯舞群島・色丹島を「引き渡す」と明記されています。でもこの「引き渡す」という文言をめぐって実は、日本とロシアの間で主張が異なっています。
日本は「引き渡す」ということは「この二島の主権を日本が持つ」ことだと主張しています。一方プーチン大統領はこの宣言では二島について「主権がどちらにあるか、どのような条件で引き渡すのかなどは決まっていない」という立場を取っています。二島を「引き渡す」といっても、日本にどんな権限が、どんな条件下で認められるのか。プーチン大統領はそこから議論をスタートさせたい考えで、両国の間で主張の違いがある上でどう交渉を進めていくのかが課題となります。
③国後島と択捉島はどうなる?
プーチン大統領はこれまで「国後島と択捉島は議論の対象にならない」と主張してきましたが、安倍首相は「4島の帰属問題を交渉対象とする」としています。「2島先行返還」の交渉を進めたとして、日本側としては4島すべての返還をめざして残る2島について交渉を継続していくのかどうかも課題です。歯舞・色丹については「引き渡し」、そして国後・択捉については人の行き来や経済活動を展開できるようになるなどの「2島プラスアルファ」での解決になるのではないかとの見方もあります。
- もっと詳しく→2島プラスアルファの解決って何?:BUSINESS INSIDER「【佐藤優徹底分析】日露首脳会談は「北方領土解散→衆参ダブル選挙」の引き金になる」、産経新聞「3年以内の平和条約締結は「見事な決断」鈴木宗男氏」
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